「白鳥姫」あらすじ  yousight トップへ

これは昭和初期頃、日本でも注目された、ストリンドベリという作家が書いた戯曲です。
この戯曲に、シベリウスが曲をつけて組曲形式にしました。
2004年2月、シベリウスの曲を中心に演奏するアマチュアオーケストラ「アイノラ交響楽団」の
初めての演奏会があり、この「白鳥姫組曲」が演奏されました。
この曲は、大変珍しい演目です。
また、「白鳥姫」は世界各地にある白鳥伝説と共通する部分も多く見受けられますが、
主役の姫は、よくある「おとぎ話のか弱いお姫様」とは少し違い、
自分自身の意志と強さ、行動力をしっかり持った、魅力的な少女です。

このページは、「白鳥姫組曲」練習中に、アイノラ団員が読むために作りました。
演奏会は終わりましたが、私がこの作品を気に入ったので、あえてページを残すことにしました。

「***」は、劇中のセリフを中略したものです。

1) 白鳥姫は公爵の娘。母は幼いときに亡くなり、今は父親と継母と、三人の侍女と暮らしている。
 白鳥姫は父親を慕っているが、継母は侍女に暴力を振るったり、白鳥姫を虐待しており、着替えを与えなかったり体を洗わせなかったりする。

 
白鳥姫  おばさま、あたしここにいてよ。
継母  お母様とお言い、まずお母様と。
白鳥姫  あたしには言えません。人間と生まれたものには、お母様は一人しかいないんで すもの。
***
継母  何という強情な娘だ。だが鋼の鞭はしなやかですぞ。ひゅうっといくぞよ。(姫に 向かって鞭をあげる)


(2) 白鳥姫は赤ん坊の時から、リガリッド国の若い王様と婚約していた。結婚の日が近づいたので、教育係として王子(王の臣下)がやってくることになった。
白鳥姫は王子の名を知りたがったが、名前を知ると恋に落ちるという予言があり、父公爵は姫に名前を教えないまま、戦争へ旅立つ。もしものときのために、角笛を残していった。

公爵  ようやく、その神聖な縁を結ぶ日が近づいたのだ。だがまず、お前に宮廷の作法や 女王の勤めを教えるために、王様は一人の若い王子をおつかわしになった。
***
白鳥姫  その王子の名は何とおっしゃるの?
公爵  それは当人からも、他の誰かからも聞いてはならぬ。その名を呼べるようになる と、きっとその人を愛するようになるという予言があるからじゃ。


(3) 白鳥姫は、一羽のクジャク(歯を鳴らすとカスタネットのような音がする)と二羽の白鳩を飼い、かわいがっている。

白鳥姫  孔雀や、かわいい孔雀や。お前は何を見ているの。何をお前は聞いているの?誰 か来たのかい? 王子様はきれいな立派な方? お前のたくさんの青い目でなら よく見えるでしょう。



(4)王子がやってくる。


白鳥姫  若い王様から花嫁へのお言づては。
王子  王様は白鳥姫へ千万の愛のお言葉を申し伝えるよう申され、また自分を待っている 幸福を心に描いて、待ちこがれる苦しみを紛らしていると申されました。


(5)王子と白鳥姫は、お互いに興味を持っていろいろと親しく話すが、継母がそれを阻止しようとする。継母は魔女だという噂がある。

白鳥姫  しいっ おばさんが庭番と話しているんだわ・・・おばさんがあたしのことを言 っている・・・それから若い王様のことも! まあ、いけないことを言う。あた しが決してお后にはなれないようにしてみせるって。そしてまじないをかけてい るのよ・・・お前に必ずおばさんの娘をもらわせるって・・・あの醜い、マグダ レーナを・・・


(6)白鳥姫は、王子の身の上(母が亡くなったばかり)を聞き、ますます王子の名前を知りたがる。王子は絶対に教えないようにする。そこで、白鳥姫は画策する。

王子  何を書いているんです?
白鳥姫  名前よ! 美しい王子の名前を全部書くの!
王子  僕以外のね!
白鳥姫  お前のもよ!
王子  それはよしなさい!
白鳥姫  さあ、名前を20書いたわ、あたしの知ってる全部よ。お前の名もこの中にある はずよ。読んでごらん!
王子  (読む)
白鳥姫  ああわかった。お前の目つきでわかったわ!
***
王子  僕と一緒に逃げよう! (中略)僕は騎士なのだ!
白鳥姫  あたしはそうじゃない。だから、お前に守ってもらうのよ、ね、王子様・・・
(手を丸めて口に当て、投げかけるように王子の名をささやく)
王子  あれっ、何をするの!
白鳥姫  お前はお前の名前であたしをつかまえたのよ。お前はあたしと一緒になってもう 一度お前の翼を取り戻すのだよ。お前は・・・(再び彼の名をささやく)
***
王子  (片手で空中の名をとらえるようにしながら)お前が投げたのはバラかい?
白鳥姫  お前はスミレをくれたのね。それがお前よ。お前の魂なのね! ほら、あたしが お前を飲んでしまったわ。もうお前はあたしの胸の中に、あたしの心臓の中へ入 ってしまったの。もうお前はあたしのものなのよ。
王子  それならお前は僕のものだよ。じゃ誰が持ち主なのだろう?
白鳥姫  あたし達よ!
王子  お前と僕の二人だ・・・ロオザ(バラ)!
白鳥姫  ヴィオラ(スミレ)!

 
(7) 魔女でもある継母は、この様子を見ていた。かつて公爵に愛されたことを思い出しもするが、結局、白鳥姫は継母に冷たくされる。
 王子は青い塔で、白鳥姫は自室で寝む。
 白鳥が飛んでくる。白鳥は、実は姫の母。王子の死んだ母も現れ、息子と娘を結ばせようと誓い合う。

白鳥姫の母  あの子たちの魂は抱き合っていますよ! ああ、悲しみが喜びに変わり、大 地があの子たちの若い幸福で沸き立ちますように!
***
王子の母  これから私は青い塔を開けにいきます!そうすれば二人の子供は抱き合えるで しょう・・・
***
白鳥姫の母  ほら・・・娘はあの子の夢を見ていますのよ。あの愚かな、醜い女は、恋人 達を引き離すことが出来ると思っているのですよ。


(8) 翌朝、庭番は「不和の種」を庭に播く。すると、白鳥姫と王子はお互いがわからなくなってしまう。王子の髪は、白鳥姫を焦がれる悲しみで灰色になってしまった。
 継母は王子に、「白鳥姫は今朝、若い王様と婚礼を挙げに出かけた」と告げる。
悲しみにくれる王子に、継母は自分の娘・マグダレーナを勧める。早々に結婚させようと、継母はマグダレーナに花嫁衣装を着せて、連れてきてしまう。だがそれは、マグダレーナではなく、白鳥姫だった。

継母  公爵が帰ってくる前に、私の仕事が仕上がったかどうか見ておこう。白鳥姫が塔の 中にいる間に、娘のマグダレーナは王子と契ってしまったのだ。


(9)一組の男女(王子と白鳥姫)が、剣を隔てて同じベッドで眠っている。

侍女  まあ、これは白鳥姫様でございます!
継母  白鳥姫だと? 悪魔のまどわしか、それとも私がとんでもない間違いをしてしまっ たのか・・・


(10) 大騒ぎになる。継母は、王子も白鳥姫も死罪だと主張する。

継母  これを見よ!若い王様の使者の王子が主君の花嫁を汚したではないか!
王子  僕の剣はどこへ行った? 無罪の証拠にするのだ!
***
侍女  王子様は死なねばならないの?
庭番  それはお前が知っていようさ!
侍女  王子様は助けてあげてよ。早く助けてあげてよ。小舟に乗せて、海へ出るんだよ!
庭番  よし、じゃ罪滅ぼしだと思ってやってみるか。
***
白鳥姫  不和の種をまいたお前が、今度は何をまこうというの?
庭番  和合、心の喜び、平和の種。万人に役立つため、誰ひとり破滅せぬようにですよ。


(11) 若い王が、ほろ酔いで現れる。侍女二人と白鳥姫が迎えるが、王は次々に失礼な口を利く。白鳥姫の方は、全く若い王への興味はない態度をとる。王も、白鳥姫のことは気に入らない。
 若い王は、自分に不実な王子の命を狙っている。王子は白鳥姫と別れ、秘密の抜け道から船に乗って海へ脱出する。
 王はこの光景を物陰から見ていて、急に白鳥姫への関心を持つ。白鳥姫は取り合わない。
 侍女が、父公爵の残した「味方」という名の角笛を持ってくる。
 白鳥姫は角笛を吹く。父公爵が帰ってくる。


公爵  お前はどういう過ちをしたのだ?
白鳥姫  ただただ恋が教えてくれた道を辿って、あたし、王子様の名を見つけたのよ。あ たしあの人の名を呼びました・・・そしたらあの人があたしを愛するようになっ たの。
公爵  そんなことではまだ死罪には当たらぬ。それからどうしたのだ?
白鳥姫  その人のそばへ寝たのよ、間に剣をおいて・・・・
公爵  そんなことはまだ死罪に当たらぬ、考えが足りなくはあったが・・・それからどう した?
白鳥姫  それだけよ!


(12) 公爵は侍女、執事、継母、庭番を呼び、証言を聞いて、事の真偽を確かめようとする。
しかし、どの証言も食い違う。
 庭番に、白・赤・青の百合を持ってこさせる。白百合は白鳥姫、紅百合は王子、青百合は若い王を表している。
 執事に鹿の挽き肉とネギ・芹などの香味野菜を混ぜたものを用意させる。鹿の肉は淫蕩を、香味野菜は情欲を表している。
 それぞれの百合が、鹿肉と香味野菜を囲むように置かれる。

公爵  なんのしるしが現れた?
侍女  白百合は汚らわしい誘惑を避けて、花を閉じました。
一同  白鳥姫に罪はございませぬ!
侍女  紅百合も花を閉じました、王子様でございます。けれども王様の青百合は、情欲を 吸い込もうとしてを開いております。


(13) この占いで、王子は白鳥姫に誠意ある恋を誓っており、若い王は怒りと妬みでいっぱいになっていることがわかる。白鳥姫は王子のものであると、公爵はじめ一同が認めた。
 継母は出ていく。王子を助けようと、一同出発する。
 しかし王子は遺体で発見された。いったんは海原に出たものの、白鳥姫への恋心から泳いで戻ろうとして、おぼれてしまったのだ。
 悲しみにくれる白鳥姫。


 継母は、生きながら焼き殺されることになっていた。それを知った白鳥姫、罪を許してあげて欲しいと父公爵に嘆願する。継母は、魔性を脱して戻ってくる。
 白鳥姫の愛による奇蹟に感動する継母。


継母  ありがたい愛よ、愛にはこんな奇蹟が出来るのだねえ! そうだ、娘や、それでは きっと愛は、暗い死の国からでも死人を呼び返せるだろうよ! 私には愛という ものが拒まれているから出来ないけれど、でもお前なら!
***
白鳥姫  あたし信じますわ、やってみますわ、祈ってみますわ!

(終) 白鳥姫は王子の耳に三度繰り返して何かささやく。三度目に王子は目を覚ます。白鳥姫その胸にすがりつく。一同感謝し讃美する。