ファストフードを研究しよう

教材室

yousight

この授業は実際に行いました。

 映画視聴=2コマ   調理実習=説明を含んで3コマ   そのほかのトピック=2コマ

選択「フードデザイン」(3単位)にて、およそ2週間半に及び行いました。
このテーマのあとは、「食糧自給率」に関する授業を行いました。

この授業のテーマ

(1)便利で、普段の生活の中に、すっかり当たり前になっているファストフード。
   栄養面について、詳しく見てみよう。
(2)ファストフード・メニューを手作りしてみて、売られているものとの違いを考えてみよう。
(3)現代の若者として、ファストフードを全く利用せずに生活するのは、非現実的であろう。
   それでは、多少なりと食生活に気を遣うものとしては、どのように利用すればよいのか考えよう。

導入

映画「スーパーサイズ・ミー」を視聴する。

この映画は、決して特定のお店を非難するのではなく、
極端な食生活・それもファストフードばかりを食べていたら、健康上どんな問題が起きるかを試しているものである。

全く食生活に無頓着で、料理を作る力もなく、
ただ便利で安価に満腹すればそれでいいや、などと考え、
映画のように毎日毎食とは言わずとも、
ファストフードを頻繁に利用する人は、現実にたくさん存在するだろう。

大人になると、想像以上に忙しかったり、意外とお金に余裕がなかったりして、
ファストフードが便利に思える場面は多い。
特に女性の場合、外食を1人で利用しにくいと感じる中、
ファストフードだけは割と入りやすいかもしれない。

だから近い将来、あなたもその1人になるかもしれない。
その前に、極端に偏った食生活やファストフードばかりの食生活の危うさには、
フードデザインを選択した皆さんだからこそ、気づいて欲しい。


視聴の前に、以下のような内容を解説した。(プリントにもした)


  これは、アメリカの映画監督 モーガン・スパーロック氏が、以下のルールに従って1日3回、   
  30日間、マクドナルドのメニューだけを食べて生活したらどうなるかを記録したもの。
  この映画の公開以降、数人が(日本でもアメリカでも)同様の実験を行っており、
  結果をインターネットに載せている。「映画ほど体調は悪くならなかったし、太らなかった」とする人もいる。

  大事なことは、ある1つのものばかり続けて食べないこと。
  何か極端な情報を得たときに、そればかり信じないこと。


<モーガン監督のルール>
1.水も含め、マクドナルド店内に存在するメニューしか口にしてはならない。
2.スーパーサイズ(日本にはない、巨大サイズメニュー)を勧められたら断らない。
3.全てのメニューを必ず1度は食べる。

 モーガン監督は、1日およそ5000Kcal分を30日間食べ続けた。
 毎日5000Kcalも食べたり、毎日ファストフードだけを食べることは、
 普通の生活では、およそ、あり得ないことである。

<モーガン監督(33歳)の身体状態>
 身長188センチ、体重84キロ。
 体脂肪率11%。
 健康体で、肥満ではない。

<モーガン監督が実験をした理由>
1.アメリカは肥満になって健康を害している人がとても多い。
2.肥満になった2人の少女が、原因はマクドナルドにあると訴訟したが、敗訴。でも、
  「ファストフード業界が人々の健康を害している」状況にあるのではないかと
  モーガン監督は考えた。それを証明するため、自分を実験台にした。


生徒には、映画を見ながら、以下のようにまとめてもらった。


(1)モーガン監督は、実験によってどのように体調や気持ちが変わったでしょう。

 5日後・・・  体重(   )Kg増
30日後・・・ 体重(   )Kg増

*体調・身体面に表れた悪い変化

*気持ち・精神面に表れた悪い変化


(2)映画の中で、アメリカの肥満率の高さの要因となったものについて取り上げられています。
  アメリカでは、何が肥満率の高さの要因になっているでしょう。



この映画の中では、アメリカの学校給食や体育授業の様子についても取り上げられている。
学校によって取り組みかたが全く違い、
取り組みの悪い学校は、日本の学校給食とは全くレベルが違い、
生徒はかなり驚いていた。「生徒の健康教育について、やる気あるのか?」といった感想が多く見られた。
しかし取り組みのよい学校は、生徒の生活態度すら改善している。
いわゆる「机に向かう勉強」以外にも、(勉強が出来れば高収入のチャンスが増えると期待するだろう)
生活全体を良くするために必要なことがある、と意識が持てると良いが・・・


展開1    調理実習  「本気で作るファストフードメニュー」

ファストフードでよくある組み合わせ・・・・ ハンバーガー/フライドポテト/シェイク
の3品を、実際に作ってみる。

ファストフード店では、注文してすぐに料理が提供される。
ハンバーガーに挟むハンバーグも、フライドポテトも、
すでに成形したりカットされた状態で冷凍されており、火を通せばすぐに提供できる。
シェイクも、普通は「シェイクミックス」としてマシーンに入っており、カップに注げばすぐに提供できる。

しかし実際に最初から調理すると、かなり手間がかかるものであることを体験しよう。

また、調理実習後は、以下のことを検証する予定である。
 (1)実習した手作り品と、店で提供されている同様品の栄養を比較する。
    なお、調理実習メニューのカロリー計算は、1年間を通し、すべての実習で「宿題レポート」として行っている。
 (2)実習にかかった材料費と、店で提供されている同様品の価格を比較する。


<実習に関して>

(1)ハンバーガーについて

本校では、実習材料は基本的に、学校近くの肉店に依頼し、実習日に配達してもらっている。
この肉店は、レストランを経営したり、スーパーマーケットにテナント出店するほか、
本校定時制の給食材料を納入してもいるため、肉に限らずほとんどの材料が調達可能である。
材料は国産品がほとんど(外国産しか手に入らない場合は、事前に連絡が来るほど)、
特に肉はすべて国産品である。

それでも、ハンバーガーに使用する「バンズ」(あの、丸いパン)は入手が難しい。
この肉店を通し、市内のパン店に特別に焼いてもらうことも考えた。
実際に、文化祭の模擬店にて「ホットドッグ」を作ったときも、
ちょうど良いサイズのドッグパンが見あたらず、特別に焼いてもらったのだ。
しかし今回は、どうにか市販品(山崎製パンから出ている)を調達してきてくださった。

ファストフード店のハンバーグパティは、本当に牛肉だけで作られていることが多いが、
実習では作りやすくするため、また一般的なハンバーグの作り方も学ぶため、
合い挽き肉・タマネギ・玉子を基本材料とした。
ファストフード店のひき肉は、非常に細かく挽いてあるように思えるが、
実習では家庭で普通にてにはいるひき肉と同様とし、店と比べれば粗めである。

このほか、薄切りトマト・レタス・ケチャップ・マヨネーズを挟んだ。
レタスはちぎったあと水にさらし、ペーパータオルでよく水分をとる。

(2)フライドポテトについて

1人分ジャガイモ1個を使用。
細く切ったあと(生徒の好みで太さは班ごとに決めた。細いほど油を多く吸う)、
ごく薄く小麦粉をはたいた。(これでサクッとした食感が出やすくなる)
実際に揚げるのは、安全性・油の節約・片づけ手間の省略を考え、
教卓ガス台に限定した。
下準備の出来た班が教卓に来て、教員の見守りの上で揚げる。
私の調理実習授業すべての中で、これが唯一の「揚げ物」である。

(3)シェイクについて

バナナ・ヨーグルト・牛乳・砂糖をミキサーで混ぜて作った。
しかしこの年は、「朝バナナダイエット」の流行により、
バナナの入手が困難になった上、高騰していた。
私の授業用テキストは年度当初に書いて配布しているため、
2学期になってからのバナナブームを予測できなかったのである。
バナナは通年で手に入り、価格も安定していると思ったのだが・・・
アイスクリームと牛乳をミキサーで混ぜて作るレシピの方が、安心かもしれない。


<実習後の検討>


(1)ファストフード店ホームページに公開されている栄養成分と、
  自分たちが作ったものの栄養成分を比較した。

すると・・・・
 特に、シェイクに大きな違いが現れた。
 市販のシェイクは、その味・香りから「乳製品」であることをイメージさせていたが、
 栄養成分には、乳製品を使用していれば多く含まれるはずの
 「タンパク質」や「カルシウム」が、ほとんど見られなかった。
 手作り品の栄養計算データと比較すれば、一目瞭然である。
 実際には本当の乳製品をあまり使用していないのではないかと考えられる。
 (原材料名は公開されていないので、断定は出来ないが)  
 そして、シェイクは「乳製品」ではなく、「お菓子のような飲み物」だと、とらえた方が現実的だとわかった。

食品成分表を見て、17歳女子の「食事摂取基準」と比較した。
結論として、ファストフードメニューだと、市販でも手作りでも、
栄養バランスが高脂肪に片寄ってしまい、カロリーも高くなってしまうことが確認できた。


(2)実習にかかった材料費と、店での販売価格を比較した。

これらを正確に比較するのは、非常に難しい。
なぜなら、実習で使用した材料はほぼ国産品のみで、15人分の購入に過ぎない。
しかし、お店の材料は輸入品も使用しているし、何万人分単位の大量購入である。
材料仕入れ値自体も、公開はされていない。
また、販売価格には、商品のパッケージ代・店の賃料・店の運営管理費・人件費など、
様々なものが含まれている。

(まあ、そういったこと・・・この商品を売り出すには、どれだけの段階と人手がかかってるんだろう・・・・
  を考えるのも、ひとつの勉強になるが)

1つ、気づいたことがあった。
フライドポテトの価格である。
ハンバーガーは、手作りしても市販品の価格と同程度の材料費がかかるということがわかった。
しかし、フライドポテトを手作りした場合の材料費は30円程度であった。
市販品の販売価格は、実習と同程度の分量のもので150円程度である。
もしかしたら、ファストフード店の利益は、ポテトによるものが大きいのかもしれない。
これも、利益率などは公開されていないので断定は出来ないが。


展開2 便利さと食生活

ファストフードばかり食べていたら、栄養バランスが高脂肪に片寄り、健康に良くないことは理解できた。
しかし、これだけファストフード店があり、繁盛しているということは、
人々に受け入れられ、利用されている証拠である。
理由の1つは「便利」ということであろう。
これをもう少し詳しく考えてみよう。


問1:あなたは、ファストフードをどんなときに利用しますか。

・・・・これで、自分の生活のどんな場面にファストフードが入っているかを振り返る。
友人と出かけたとき・時間があまりないとき・自分の小遣いで行ける外食はファストフードが限界
といった回答が多かった。


問2:あなたは学校を卒業し、社会人になったとします。
   1人で昼食を、外食でとらなくてはならない場面があります。
   そんなとき、こういった形式の外食を、それぞれどう思いますか。
   1人で利用しやすいですか。

ハンバーガー店  ドーナツ店  牛丼店  定食店  ファミリーレストラン  普通のレストラン
回転寿司店  普通の寿司店  そば・うどん店  ラーメン店  喫茶店・カフェ


・・・・高校生では、1人で外食した経験はほとんどの生徒がもたない。
特に女子では、1人で行けそうなのはハンバーガー店・ドーナツ店・喫茶店やカフェぐらいだなあ、
と話す生徒が多かった。
現実に、それ以外の店で「女性1人客」は少ないように見える。
女性1人客が入りやすい店というのは、
店の側で立地やテーブル配置など、様々な配慮をしているそうである。


問3:ファストフード店各社は、ホームページにて
 「商品のカロリー」「商品に含まれるアレルギー物質」「原料についての解説」を
 載せています。
 なぜそんなことをするのだと思いますか。


・・・・近年は消費者側も、健康や食の安全に関心が高く、
ファストフード各社も企業としての社会的責任から、これらの情報を公開している。
食品について様々な事件が起きているが、それは一部の不心得な事例であり、
ただし、日本の外食産業は一般に、食の安全性や衛生管理について、
非常にレベルが高いということは、知っておくべきだろう。

外食や加工食品の安全性や健康被害を気にするのは当然のことだが、
それよりも、外食や加工食品ばかり安易に利用することで、栄養バランスが崩れ、
その結果、健康被害が起きてしまう可能性を、もっと気にするべきである。
そちらの方が可能性が高いだろうし、自分で予防することもできるのだから。


問4:あなたは、ファストフード店に行く前に、
 ホームページでカロリーなどをチェックしたいと思いますか。


・・・・したい、していると答えた生徒は1人もいなかった。
問1では、ファストフードは「出かけたとき」「時間のないとき」「お金が足りないから」
と答える生徒が多かったことを考えると、
ファストフードは、あまり計画性を持って利用する実態はないようだ。


問5:ファストフード店はたいていの町にあり、子どもから大人まで、大勢の人でにぎわっています。
   どうしてこんなに、ファストフード店は人気があるのだと思いますか。


・・・・なぜこんなに受け入れられたのかを考えさせた。
ほどほどの値段で、ほどほどの味の料理を、待たずにすぐ食べられる。
気軽さ、便利さが人気なのではないか・・・
次々に新商品が出て、面白そうだから人気なのではないか・・・・
そんな風に答える生徒が多かった。  実際にそうである。

つまり、現代の生活では、
味や栄養バランス、好み、安全性などのほか、
「便利さ」というのも食事選択の大きな要素になっているのであろう。


問6:クイズです。以下のファストフードメニューを、カロリーの低い順に並べ替えましょう。(データはすべて、マクドナルド)

@ビッグマック  Aテリヤキバーガー  Bハンバーガー  
CポテトM  Dホットケーキ  EコーラM  FバニラシェイクM  G100%オレンジジュースM

・・・100%オレンジジュースにヘルシーなイメージを持っている生徒が多いが、
実はコーラよりもカロリーが高いことに驚いていた。
(炭酸飲料は、そのカップに入っている分のうち、気体が占める分もあるし、
 100%果汁とはいっても糖質だから、甘い飲み物にはカロリーがあるのです・・・)


まとめ


(1)ファストフードの栄養の特徴
 @多めになる栄養成分は・・・
・・・・カロリー、脂質、炭水化物

 A少ない栄養成分は・・・
・・・ビタミン、無機質、食物繊維

 Bひんぱんにファストフードを利用すると・・・
・・・・肥満や生活習慣病につながるかもしれない

 C材料について
・・・ 安全に、衛生的に作られているが、何をどれだけ使っているのか がわかりにくい。


(2)健康面から見て、ファストフードはどのように利用すると良いか。

@行く回数
・・・なるべく少なく

Aメニューや分量の選び方
・・・なるべくボリュームの少ないもの

Bファストフードを利用した日やその翌日の食事はどうしたらいいか
・・・野菜を多く、バランスをいつも以上に意識する


(3) ファストフードと外食産業

ファストフードや外食産業の歴史について、簡単に紹介する。