午前1時の帝王切開

おかあさんになった日 トップへ戻る

手術が決まったら、急に陣痛が強くなったような気がした。
自然分娩できなくなって、ガッカリしたせいかもしれない。
それとも、子供は外に出ようとしているのかもしれない。
でもとにかく、これ以上いきむと、子供にストレスがかかって危険なだけなので、
陣痛室にいたときのように、痛みを逃がすしかなくなった。

しかし、陣痛室にいたときとは段違いの強い痛み。
結局、激しく叫ぶことになった。
夜中なのに迷惑な話である。
(分娩室の向かい側に普通の病室があり、しかも分娩室は完全防音ではないので)

ストレッチャーに乗り移る。
医学ドラマ(「ER」とか)だと、こういうときは、スタッフが「せーの」で患者を持ち上げて移すのだが、
現実は、陣痛に耐えながら、自分で乗るのであった。
もう、何でもいいから麻酔してほしい、と思っていた。

手術台に乗ったのだが、とても幅が狭い。
ガタイのいい人は落っこちてしまうのではないだろうか。
足に、膝下を空気でマッサージする機械が付く。足エステでときどき見かける機械に似ている。
左手に血圧計と点滴、右手に酸素計測計、胴には心電図モニターがつけられる。
腹には消毒薬が刷毛(?)で塗られる。
もちろん口には酸素マスク。
そして、頭の先から足の先まで緑の布がかけられ(お腹の部分だけ穴が開いている)
周りの様子は見えなくなった。

背骨の間に麻酔が打たれる。
確か、「ブラック・ジャック」で、ジャック本人が自分を手術するときに打っていた麻酔と同じだと思う。
「硬膜外麻酔」とか言うんではなかったか。
ジャックはこの麻酔をしたあと、「よし・・・感覚がなくなった」と言って、自分のお腹をメスで切っていたが、
そんなに感覚はなくならなかった。
確かに足がしびれ、陣痛はラクになったので、悲鳴は上げずに済んだが、
でもやっぱり陣痛が来ると痛い。
部分麻酔ってこんなもんなのかなあ・・・と思った。

午前1時、メスが入る。
初めは、ヘソ下を縦に点々とメスを入れている。
ものすごく痛い。麻酔で痛みの感覚が鈍るなんてウソだ。
本当に痛い。刃物で刺されている痛みだ。
思わず悲鳴を上げる。足も少し動いてしまう。

あとでドクターやナースに聞いたら、
普通、この麻酔をすると、足がしびれるどころか感覚がなくなって、
下半身はまったく動かなくなるものなんだそうだ。眠っちゃう人も多いんだそうだ。
なのに私は、足は動くわ、会話はできるわで、
スタッフも皆、私に麻酔があまり効いていないのに気付いたそうだ。

しかし主治医に、
「子供を一刻も早く出さないと危険。5分で取り出すから・・・頑張れる?」と聞かれた。
「頑張ります」と答えた。
子供に息をさせなくてはいけない。

だが、こんなに長く感じた5分間はなかった。
主治医は、点滴に麻酔薬を追加してくれたが、すぐ効くわけではない。
ヘソ下を一直線に切っている。
子宮を一直線に切っている。
バキュームか何かで、血を吸い取られるのがわかる。
血は温かい。
子供は見えているのではないかと思ったが、
「ここは・・・肩?」などというスタッフの会話が聞こえる。

子供は産まれかかっていたものだから、子宮内に全身があるわけではないみたいだ。
下から手を入れて、子供を子宮内に戻しているような感触がある。
子宮内もけっこう触っている・・・?
子宮内、触られるとこんなに痛いものだとは知らなかった。
とにかく痛い。ずっと悲鳴を上げっぱなしだった。
これなら陣痛の方がずっとラクだ。

でも、本当に5分かからず、子供を取り上げてくれた。
少し離れたところで産声が聞こえる。
「女の子ですよ」と知らされ、お礼を言ったあと、私が最初にいった言葉は
「ああ、それならかわいい服をたくさん作ってあげよう」だった。

主治医は、麻酔が効かないので、なんとか気を紛らわせようとしてくれて、
私と雑談をしてくれた。
「保育」の授業の話をしたような気がするが、あまり覚えていない。
お腹をふさぐのに、縫うときになってようやく麻酔が効き始め、
痛みが薄れてきた。
子宮の切り口は、いかにも「縫っている」という感じがしたが、
お腹の切り口はホチキスのようなもので、パシッと止めているような感じだった。

そうして手術が終わり、ストレッチャーで個室病室へ運ばれた。
この部屋は、ツワリ入院のときにずっと入っていた、あの部屋じゃないかあ・・・・
相変わらず、窓のすきま風は直っていない。

夫と母が手術室の廊下におり、「目のぱっちりしたかわいい子だよ」と教えてくれた。
「こんなにかわいい子を産んでくれて、ありがとうね」とも。
娘は体重が3.4キロもあった。それは大きい。
そして、へその緒が首に二重に巻き付いていたそうだ。
それでは出てくるはずがない。手術して良かった・・・

夫は、娘の写真をデジカメで撮影しており、
病室に移った私に見せてくれた。
親バカだけれど、「私たちの間にこんなかわいい子が産まれるなんて」と思った。

「生まれたての赤ん坊は、一種の興奮状態にあり、
目は開けていることが多い」と聞いていたが、
まさにそのとおり。
娘はぱっちりと目を開けており、
夫も母も驚いたそうだ。


わたしの方は、麻酔が切れると寒気が起きるということで、
病室のベッドには電気毛布が入っていたが、すごく暑かった。
手術後なので仕方ないけれど、38度近い熱が出てしまった。
手術跡の痛みはかなりひどく、点滴と座薬で痛み止めを入れてもらった。

それにしても、手術のできる技術のある病院で産むことにして良かった。
抗生物質も使い放題の時代で良かった。
時代が時代なら、私も娘も助からなかったのではないかと思う。

娘が産まれたのは午前1時すぎ。
総分娩時間は19時間39分。
ドクターは今日このあと、また続けて病棟勤務。その翌日は外来勤務・・・
ものすごいハードな仕事だ。ありがたい・・・
いったい、産婦人科ドクターはいつ休んでいるのだろう?

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